「かゆいトコないですか?」と聞かれたら「当ててください」と言いたい

この世のすべてを笑いにかえて生きるタムケンによるブログ。過去の記憶、日々の思い、外国人の妻や障害(ダウン症)を持つ子供たちとの日常について、笑いとユーモアたっぷりのエッセイを中心に書いています。

嘘が上手な子供、嘘が下手な母親

オンナは思うより先に口に出して後悔するよね、
と言う話。(多分)

 

ウチの子供の小学校は土曜日が参観日だったので、週明けの月曜日が振替休日だった。


この日は毎年恒例で、休みの子供達を連れて子供会の遠足だ。今年は大阪の枚方パーク(関西での通称ヒラパー)に行く予定で、子供会の会員であるコナン(長男)、チューペット(二男)が行く。低学年には保護者の付き添いが必要なので、タルギ(嫁さん)が同行することになっていた。どうせなら家族みんなで行こうと、私も休みをとって立星(りゅうせい 三男)共々行くつもりだった。

ところがお腹の風邪で立星がダウン。体の上下から様々な"液体"をほとばしらせてグロッキー。数日後にチューペットもダウン。当然、二人ともヒラパーに行けるわけもなく、残念ながら私と三人でお留守番になった。

 

チューペットは恐ろしいまでに気落ちしていた。そもそも我が家では私とタルギが人混みが大嫌いで滅多に遊園地に行かないので、物凄く楽しみにしていたらしい。とは言え体調が悪いので仕方ないのだが。

 

遠足前日。

 

雨天の予報が出ていたので、行き先がヒラパーから神戸の須磨水族園になったとの連絡が子供会から入った。
今度は元気に行く予定だったコナンのテンションがゲキ落ち。俺までヒラパー行けないのかよおぉ!と。これも雨天なので仕方ない。
反対にチューペットは少し安堵した様子。自分だけが行けないわけじゃないのね、と。
近くて遠いヒラパーなりけり。

問題はここからである。

 

遠足当日。

 

コナンとタルギを送り出し、のんびりと子守をしていたところ、昼前にタルギからメールが入った。

 

「ヒラパーで楽しんでまーす」

 

ん??
ヒラパー??
須磨水族園じゃないの?

即座に返信。

 

「今、ヒラパーにいるの?」
「そうだよ♪」
「雨天だから水族園に変更されたんじゃないの?」
「どうもヒラパーは雨天じゃなかったみたい。
だから予定通り来てるのよ〜。
ジェットコースターとか乗っちゃったのよ〜」
「そ、そうなんだ」

 

どうも予定通りヒラパーに行った模様。
ツアーを仕切る子供会のママはさぞ悩んだことだろうが、結果的には雨も降らず、予定通りに楽しめることになったわけだ。平日の曇天なので人もそれほど多くはない。タルギさん、意外と楽しんでらっしゃる様子。

 

しかし。

 

まずい。
これはまずいぞ。
ヒラパーにはみんなが行けなくなった、だから留守番でも仲間はずれじゃない、そうチューペットも諦めがついたのである。
それに反してやっぱりみんなヒラパーには行けて、お兄ちゃんとママが散々楽しんで帰ってきたら、チューペットが号泣することは必至だ。
この事実は伏せておいた方がいい。

 

「タルギ、この件はナイショで」
「へ?何で?」
「だってチューペットが残念がるやん」
「あ、そうか!たしかに」
「ちゅうわけで、今日は水族園に
行ったことにしといて。
間違ってもヒラパーだの遊園地だのに
行った話はしないように」
「うん。わかった」

くれぐれも、くれぐれも内緒で!とタルギとコナンに念を押しまくった。

 

数時間後。

コナンとタルギが帰って来た。

 

「ただいま〜。チューペット、立星はどう?」

 

リビングでテレビを見ていた留守番トリオに、帰ってきたコナンが話しかけてきた。
コナンよ、余計な感想は要らんぞ。ボロが出てヒラパーに行ったことがバレるから。
タルギは着替えに寝室行ってしまった。
何かあれば私がフォローせねば。

 

「割と平気。
で、お兄ちゃん、水族園どうだった?
いっぱい魚見てきた?」

 

まずい展開だ。
チューペットから話題を持ちかけてきた。行き先が水族園だろうが興味深々である。ヒラパーがぶっちぎりに行きたいだけで、決して水族園に行きたくないわけじゃない。
頼むぞコナン。ヒラパーには魚も水槽も全く無かっただろうけど、小学五年の嘘力で乗り切ってくれ。
普段は嘘はいかんと言ってるパパだけど、今日は違うのだ。それが大人の事情だ。

 

「んん??魚??まあまあだったよ。
え〜と、それよりも乗り物のほうが
楽しかったかなぁ」
「乗り物もあったの?」
「うん。水族園だけど少しはね。
でもヒラパーの方が良かったかなぁ」

 

Good job!

素晴らしい!

コナンは乗り切った。
魚を見たとも言わず、ヒラパーに行ったとも言わない。水族園にもゲーム感覚の乗り物一台くらいはあるだろう。仮に乗り物のことを突っ込まれてもヒラパーの乗り物を地味に話せば筋は通る。なかなかの話術。

 

「そっか〜、
やっぱりヒラパーの方が良かったのか〜」

チューペットもそれなりに納得。会話終了。
この後は巧みにコナンがゲームに誘い、ことなきを得た。
よし。これで大丈夫。隠し通せた。
そこに着替えたタルギがやって来た。

 

「いやー、ジェットコースター凄かったよ!
あの迫力は最強やな!!」

 

ええ〜〜ーっ!?

 

おいおい、冗談だろ?
何てことを言うんだこの人ったら。
コナンがファインプレーの嘘力で乗り切ったってのに、なんで完全にヒラパーに行った感じで話しちゃうわけ?

まさか。

まさか、この人忘れてるんじゃないよな。
ヒラパーに行った件を隠さなければならないことを。
そうだったらもう収集がつかんぞ。
チューペットの目の前でタルギに今から思い出させるわけにもいかない。それはチューペットにバレることを意味する。

 

先ほど見事に疑惑を回避したコナンを見た。
彼も小刻みに顔を振っている。
私はアイコンタクトを受信した。
(パパ、ママがヤバイよ。ヤバイよママが)

何とかせねば。

 

「いや、タルギさんたら何言ってんのよ」
「ん?何が?」
「何がってあなた、ジェットコースターの
迫力なんてどうでもいいでしょ」
「どうでもいいわけないじゃない!
凄かったんだから!」

 

こいつ全然分かってねえ!

 

忘れてる。
これは完全に忘れてしまっている。

 

「いや、今は関係ないから、ね? ね??」
「何よ!!
私の話はどうでもいいってわけ??
酷い旦那やな!
アホ! タムケンのアホ!」

 

なんで俺が怒られてるの!?

 

殴りたい。
今すぐグーで殴りたい。
状況が全然分かっとらんやないか。
URYYYY
むうう、ちょっとディオが入ってきた。

 

「タルギさん、タルギさん!!」
「何なのよ!?」
「ちょっと落ち着いて考えてみて。
ジェットコースターなんて乗ってないでしょ?」
「何言ってんの!?乗ったわよ!」
「いや、乗ってないじゃない。
だって水族園だもの!」
「はあ!? 水族園!?」
「そう、水族園! SU-I-ZO-KU-E-N!」
「すいぞ・・・ おおう!?」

 

思い出すの遅いよ!

 

ようやくタルギは思い出した。自分はヒラパーには行かなかった、水族園に行った、と嘘をつかなければならないことを。

 

「でしょ?」
「う、うん。無い。
スイゾクエンにはジェットコースターナイ」
「そうだね、間違ったね」
「うん、ワタシ、マチガエタ」
「あははは!」
「アハハハ!」

 

タルギは日本語が下手な棒読み外国人と化した。
顔は引きつっている。
しかしこれは、この状況は既に・・・

 

「ねえ、パパ」
「な、何かな、チューペット君」
「みんな行ったの?」
「な、何が?」
「ヒラパー。行ったんじゃないの?」

 

そりゃそうなるわな!

 

目の前でこんなやり取りしてたら、いくらチューペットが小学三年生でも分かる。
みんなヒラパーで楽しんで来たのだと。

知らん。
俺はもう知らんぞ。
全てはタルギのせいだ。
自分で説明してもらわないと。
ここから挽回するルートは見当たらんが
せいぜいご立派な言い訳をしてもらわないと。

 

「パパは分からんよ。タルギさん、どうなの?」
「ママ、ヒラパーに行ったの?」

 

うろたえるタルギ。

 

「あ、あう、ひ、ヒラパーには」
「ヒラパーには?」
「行った、ような、気が、したのよ、ねぇ」

 

嘘が下手すぎるよ!

 

どうせ嘘をつくならもう少しまともな嘘が出ないものだろうか。
行った気がするってアンタ、どんな内容やねん。
到底ごまかせるとは思えない。
南無〜。神さま、どうかこの愚かな母をお許しください。
この言い訳を信じるアホがいてたまるか。

と、うつむいたチューペットがつぶやいた。

 

「そっか〜、行った気がしただけなんだね。
びっくりしちゃったよ♪」

 

信じちゃった!?

 

意外な展開。
タルギのグダグダな言い訳が通じてしまった。あるんだ、こんなことって。
恐るべし小学三年生の純粋さ。
恐るべし大陸の嫁。

まさかの展開でなんとも言えない空気になってしまったところを、再びコナンがゲームの世界にチューペットを誘い、その場はおさまった。
一番凄いのはコナンかもしれない。

弟とのゲームを終え、しばらくしてコナンが私のところに来た。

 

「ねえパパ」
「何?」
「ママってアホなん?」

 

この子ったら直球やな!

 

うーん、しかし何て答えようか。
まあそのまま伝えればいいか。

 

「そうじゃない。アホとは言わんね」
「じゃあ、何?」
「今日は機嫌が悪い、なぜなら機嫌が悪いから。
今日は楽しい、なぜなら楽しいから。
悪いことも楽しいことも、
思うより先に口に出しては
後で後悔するもんなの。
それがオンナって生き物なの」
「ふーん。さっぱり分かんない」
「ですよね〜」

 

まだコナンには難しいコメントだった。

 

「ちなみに一つだけ忠告しよう」
「何?」
「ママをアホ呼ばわりしないように。
大陸の血は極めて好戦的だからな。
万が一知られたらブチ殺されるぞ」
「わ、わかった」

これは激しく分かってくれたらしい。

 

オンナのキモチについては10年後に再講義することにしよう。