「かゆいトコないですか?」と聞かれたら「当ててください」と言いたい

この世のすべてを笑いにかえて生きるタムケンによるブログ。過去の記憶、日々の思い、外国人の妻や障害(ダウン症)を持つ子供たちとの日常について、笑いとユーモアたっぷりのエッセイを中心に書いています。

大陸の嫁はやはりアウト オブ ジャパンだったと言う話

長男のコナンが学校から宿題を預かってきた。家族でやる内容なので手伝ってほしいそうな。
さてさてどんなもの?と見てみたところ、
「ボクたちの生活、パパとママの子供の頃の生活、それぞれ比べてみよう!」とのこと。
なるほど。それぞれの時代における生活の勉強ってことね。


コナンは小学校生。

タルギ(嫁さん)とはおよそ30年生まれ育った時代が違うので、その流れや違いを家族から聞き取って、それを学校で発表するようだ。
具体的には、どんな食べ物を食べていたか、どんな家に住んでいたか、どんなお手伝いをしていたか、などである。


しかし我が家では注意が必要な課題だと思った。

それは大陸の嫁、タルギの存在である。

 

韓国で生まれ育ったタルギは私の母や父と同じレベルで昔のことを話していることが多々あった。総じて、昔は貧乏で便利な機械やお店が無かったので大変だった、という類の話だ。
私の母などは1950年代に鹿児島の農家に生まれ育ったので、日本人の中でもかなりアナログな生活を体験していると言っていい。例えばトイレがポットンだったなんてのは序の口で、家に牛や豚を飼っていて毎食の残飯は家畜にあげていたとか、風呂は薪で炊いていたとか、カレーライスは誕生日だけしか食べられないご馳走だったとか、テレビを買ったら近所の人が見に来たとか、村には店が一軒だけだったとか、『ALWAYS 三丁目の夕日』のような世界に生きて来た。その母と同じレベルの話ができるタルギの子供時代である1980年代の韓国の話と、私が生まれ育った1980年代の日本の話とは、到底合わないと思われた。


子供時代、私は関西のベッドタウンで生まれ育ったので、コンビニはないがスーパーはそこいらにあり、今とそこまで食生活は変わらなかった。トイレは水洗、洗濯機は二層式、お風呂はガスで炊いた後に自分でお湯を混ぜて均一にする、と言う程度。

とは言え、まあ上記に関わる程度の韓国の話になるのであればそれはそれで面白そうだ。本格的にタルギの子供時代の話を聞いたこともないし、母とのやりで、ある程度は想像がつくので、これはタルギがメインで宿題に回答してみようか、と思った。

 

「ねえママ、昔はどんなお手伝いをしていたの?」
「お手伝い?結構たくさんやったよ」
「どんなの?」
「村に一つだけの井戸まで毎日水くみに行ってたよ♫」

 

あっさり想像超えてきやがった!

 

冒頭からかなりの勢いでぶっち切られた。さすがタルギ。大陸の女。経験の幅がアウト オブ ジャパン。私は井戸すらロクに見たことがないのに、それを実用で経験していた。しかも村に一つとは。もはやテレビの中の人に等しい。

 

「ママの子供の頃、韓国は貧しくてね。ママのママはとても大変だったので、田舎の親戚にママを預けたの。そこでよくお手伝いをしたのよ。」

 

なるほど。さすがに韓国全土がそんなわけではないらしい。しかしなかなかのエピソードからのスタートだ。

 

「水くみかぁ。ママ大変やったね」
「そう。桶に水を入れると重くて。よくこぼして怒られたよ」
「他にはどんなお手伝いをしていたの?」
「う〜ん、熊に眼を埋め込む手伝いもしてたかな」

 

どんな手伝いだ!

 

出た。すごいの出た。
どこから手をつければいいか分からん回答である。
熊に眼を埋め込む?
地上最強の哺乳類と言われている、あの熊に?
熊を素手で捕まえられるだけでも考えられないレベルのワイルドさだが、とっ捕まえた熊に眼を埋め込むとなると、それは神の所業と言っていいのではないか。つまりタルギのお母さんは神の領域にあり、子供時代のタルギはそれを手伝っていたのか。
ありえん。
コナンが質問した。

 

「ママ、熊の頭に眼を埋め込むって、どう言うことなの?」
「ああ、少し説明が足りなかったね。ママのママは熊の縫いぐるみを作る内職をしていたの。それで熊の縫いぐるみに眼の形をしたボタンを縫いつけたりしてたのよ」

 

なるほど、そう言うことか。焦った。

 

「その時はどんなおウチに住んでたの?」
「屋根はあったよ♫」

 

屋根"は"あった!?

 

どういうことだろうか。あえて屋根を強調するのは。じゃあ何が無かったんだろう。気になる。物凄く気になるではないか。純粋なコナンはストレートに質問し続ける。

 

「屋根あって良かったね。でも何が無かったの?」
「まあ、壁が若干ね」

 

壁、若干無かったの!? 

 

家か?それって家に入るのか!?
壁が無ければ家と外の境界は限りなく曖昧になるはずだ。どんな状況で生活してきたのだろうか。そしてこれって子供に話し続けても大丈夫な内容なのだろうか。すごく不安になってきた。このままで小学生の宿題に書ける内容に収まるのだろうか。

 

「壁、じゃっかんなかったんだぁ。寒そうだなぁ」
「まあ冬はどこでも寒いよね」
「確かにそうかもね。で、おウチはどこにたってたの?」
「地下に埋まってたよ♫」

 

宿題崩壊!!

たまらず割って入った。

 

「ちょっと待ってタルギさん!」
「え?どうしたの?」
「どうもこうもないわ!エピソードのクセがハンパないわ!」
「ええ?だって本当だもん」
「いや、嘘だとは思っとらんよ。でもアンタの過去の暮らしは映画やドキュメンタリーレベルでさ、現実感なさすぎなのよ。こんな内容発表したら河内長野市の三年一組の授業が静寂に包まれるわ!」
「静寂って何さ!貧乏で悪かったな!」
「悪かないけどぶっ飛び過ぎなんよ。地下の家ってどんな家!?」
「だから地面に埋まってたの」
「埋まってたら死ぬやんけ」
「全部埋まってるわけないでしょ。敷地に傾斜があったから家が半地下状態だったの」

だったらそう言って欲しい。説明が少なすぎる。タルギは過去に催涙ガスを浴びせられた経験があるくらいだから、反社会勢力として当時の韓国の権力者に粛清され、家ごと埋められたのかと思った。

 

「でさママ、どんなものを食べてたの?オヤツは?」
「ん〜、よく食べたのはポンテギかな」
ポンテギって何?」
「えっと、蚕のアレだアレ」
「アレって?」
「美味いヤツだよ」

 

虫って言えよ!

 

出た、ポンテギ。韓国の伝統食。
しかし虫を食べていたと言うと子供が引くのではっきりは言えないらしく、かなり言葉を濁している。家が地面に埋まってて壁が無かった話はできるが、虫の話は出来ないあたりがよく分からない。

 

「タルギさん、そこは虫食べてたってはっきり言ってあげないと」
「誰が虫を食べてたって!?失礼なこと言うなヨ!」
「なんでそこで怒るの?いや、ポンテギは虫でしょ、完全に」
「虫じゃない!」
「じゃあ何なの?」
「サナギだ!」

 

どんな理由だ!

 

「ええー?サナギも虫の形態の一つやん」
ポンテギはサナギだ!足が生えてるのが虫なのだ!」
「そ、そんな言い訳が通」
「食べるのが先で後でサナギってわかったの!あとで虫と同じって言われても既に食べ慣れてる後なんやからどうにもならんやんか!韓国の貧しい家ではだいたい蚕を飼ってて、繭から絹糸とって、それを紡いで、ママたちは糸を集める内職してて、糸を取ったあとはサナギを甘く煮て、子供たちがそれを食べて、みんな必死で生きてるの!蚕は貧しい人たちを支えてくれてるの!だからポンテギはありがたい生き物なの!バカにするのは許さんよ!」

 

話が違う方向に!?

 

「いや、すごくいい話が出てきたとは思うけど、なんで俺怒られてるわけ!?」
「だってタムケンさっきからうるさいねん!
突っ込みとか要らんねん!黙って聞いとけ!」

 

今度はコナンが割って入った。

 

「うん、もう宿題はこのへんでいいや。
お休み〜」

 

我が子に見放されてしまった。
この後コナンがどんな風に宿題をまとめたのか、その結果、三年一組が静寂に包まれてしまったのか、その答えは謎である。

 


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