「かゆいトコないですか?」と聞かれたら「当ててください」と言いたい

この世のすべてを笑いにかえて生きるタムケンによるブログ。過去の記憶、日々の思い、外国人の妻や障害(ダウン症)を持つ子供たちとの日常について、笑いとユーモアたっぷりのエッセイを中心に書いています。

外国人の嫁さんが発見した、大阪のスゴイ話

「タムケン、大変だ!

  私は今すごいコトに気づいてしまったよ!

  みんな知ってるのかな!?

  これはエライことだ!」

 

車を運転する私に、韓国人のタルギ(嫁さん)が助手席で突然騒ぎ出した。

 

家族で車に乗って移動しているときは良いコミュニケーションの時間になる。テレビも食べ物も来客も何もない不便な空間、言わば密室にみんな揃っていて、自然と会話をすることになるからだ。しかしタルギは、しばしば突拍子も無い話を放り込んでくる。驚きも大きいが、それが楽しくて仕方ない。こう言う驚きがあるから、結婚生活や家族を持つことに意義がある、と言っていい。

 

今度は何を発見したのだろう。芸能人や変な人を見かけたのだろうか。それとも前を走る車のナンバーがゾロ目だったとか。あるいは車に乗っているから、逆に家でのことを思い返したとか、忘れ物をしたとか。いずれにせよ、タルギは私の想像を越えること多々ありけり。

 

「タルギさん、何を騒いでいるの?」

「タムケン、落ち着いてる場合じゃないよ。      日本は大変な状況になってるよ!?」

「だからどうしたのさ?」

「日本のタクシーは、

  中国を潰そうとしてるみたいだ!!」

 

想像の超え方がハンパねぇな!

 

出た。すごいの出て来た。

さすが大陸から移住して来ただけはある。

いつもながらスケールがワールドワイド。

しかし何でまたそんなワールドワイドなことを見つけたのだろうか。大阪市内を車で走っただけなのに。

 

「うん。いったん落ち着こうか。

  どうしてタクシーが中国を潰すの?

  島国ジャポンの感覚ではちょっとついて行けないかな」

「あのねタムケン。今日だけじゃないの。

  大阪は今、異様な雰囲気になってるの。

  だってタクシー業界がこぞって

  中国を潰そうとしてるんだもの」

「どうしてそう思うわけ?」

「まったくタムケンの注意力の無さには呆れるわね。  いいわ。教えてあげる」

「よろしくお願いします」

「最近のタクシーは色々ステッカーを

  貼ってるよね?  初乗り運賃とか、クレジットとか、割引とか」

「ふんふん。それで?」

「そこにヒントが隠されてるわけ。

  ほら、今も前を走るタクシーにも貼ってある。 分かる?」

 

前を走るタクシーを見た。

しかし特におかしなステッカーは貼っていない。

 

「すまんタルギ。全然分からん」

「ここまで教えてあげてるのにまだわからないわけ?

  アンタ、どうしょうもないわね。

  もう一度よーく見てみて。

  ミンミンって文字が見えない?」

「ミンミン?」

「そう、ミンミン。

  中華料理屋の珉珉と同じ漢字でしょ?」

「ん?ああ、確かにそれっぽいのが貼られてるね」

「でね、珉珉は中国のレストランでしょ?

  そのレストランを打ち破ってやる!って、

  ステッカーをそこら中のタクシーが貼ってるからには、 タクシー業界は総力を挙げて中国を潰そうとしてるって 考えられるわけよ!

  その事実に私は気づいてしまったの!

  だから大阪のタクシーには

  「眠眠打破」って貼ってるのよ!」

 

それはドリンク剤の広告では!?

 

解けた。謎が全て解けた。

 

コンビニやドラッグストアでよく見かける「眠眠打破」は便利な眠気覚ましだ。おそらく眠気が大敵であるタクシーの運転手さんたちの御用達で、売り込みと広告も兼ねて、メーカーがタクシーにドリンクと一緒にステッカーも配っているのだろう。それを見たタルギが勘違いした模様。しかし「眠眠打破」ステッカー1枚で、タクシー業界と中国の争いにまで想像力を昇華させるとは。あっぱれとしか言いようがない。

面白い。メチャクチャ面白い勘違いじゃないか。

 

助手席で、大変や〜、これは大変なことや〜と仕切りに騒ぐタルギであったが、私はあえて否定しなかった。なぜかって?

 

だって放っておいた方が面白いから!

 

母親の驚きと面白さが伝わったのか、眠っていた立星(りゅうせい)が、少しだけ笑った気がした。