「かゆいトコないですか?」と聞かれたら「当ててください」と言いたい

この世のすべてを笑いにかえて生きるタムケンによるブログ。過去の記憶、日々の思い、外国人の妻や障害(ダウン症)を持つ子供たちとの日常について、笑いとユーモアたっぷりのエッセイを中心に書いています。

漫才〜豆まき道場〜 

 

息子 「わ〜い。今日は豆まきだ〜!」 

父親 「ははは。ずいぶんとはしゃいでいるな」 

息子 「でもウチで豆まきなんて初めてだよね」 

父親 「ああ。我が家の豆まきは本格的でな。 おいそれとはできないんだ」 

息子 「毎晩お父さんが飲んだくれているからだと思っていたよ」 

父親 「何を言うんだ。そんなことはないよ。 さあ、今日は存分に教えてやるぞ」 

息子 「うん!」 

父親 「まず豆を用意する」 

息子 「この豆でいいのかな」 

父親 「いや、違う。普通の豆は使わない。 もっとブルジョワなやつが必要だ」 

息子 「じゃあどんな豆を使うの?」 

父親 「これだ」 

息子 「あ、フジッコのお豆ちゃんだ♪」 

父親 「察しがいいな、息子よ。このねばっこい豆を使う」 

息子 「ねばっこいヤツだね。入れ物はどうするの?」 

父親 「入れ物には今朝捕まえてきた スカイフィッシュを使う」 

息子 「巷で騒がれている幻の飛行生物だね。 大陸の大穴とかに住んでるってテレビで言ってたよ」 

父親 「日本では六甲山にいるとも言っていたがね」 

息子 「無茶な話だよね」 

父親 「だが私ならこの通り、捕まえることができる。 ご覧?」 

息子 「グッタリしてるよ、お父さん」 

父親 「ちょびっと動いている。まだ生きているんだよ」 

息子 「へ〜、これが本物かぁ。初めて見たよ」 

父親 「林の中でお昼寝している子供の スカイフィッシュを長渕キックで滅多打ちにして捕まえたんだ」 

息子 「お父さんって凄いな。僕も頑張らないと」 

父親「でも加減しないと死んで液化してしまうからほどほどにな。スカイフィッシュの死骸が見つからないのも そのせいだ。 それから大人のスカイフィッシュは現役時代のアントニオ 猪木並に強いから絶対に手を出すな。 父さんは一度だけ挑戦したことがあるんだが 肋骨を150本近く折られて半殺しにされた」 

息子 「うん。気をつけるよ。でも大人のスカイフィッシュは見たことがないから 間違えるかもしれないよ。 どうやって見分けるの?」 

父親 「アゴがしゃくれているからすぐに分かる」 

息子 「それなら大丈夫だね」 

父親 「じゃあ次はフジッコのお豆ちゃんをこのスカイフィッシュにねじ込むんだ」 

息子 「痛がっているみたいだよ」 

父親 「構うもんか。どうせ後で死ぬんだから無理やり押し込め。お父さんの肋骨を150本近くバキ折った連中の子供だ。 もしかしたら容赦するな」 

息子 「恨みがこもり過ぎて日本語が滅茶苦茶だよ、お父さん。それくらい本当の豆まきって大変なんだね」 

父親 「ああ。次は豆の投げ方を教える」 

息子 「うん!」 

父親 「まずねばっこいモノの中から昆布を取らないように 豆だけを取る」 

息子 「これかな」 

父親 「それはスカイフィッシュの別バラだ。どうやらメスだったみたいだな」 

息子 「どうして別バラがあるとメスなの?」 

父親 「メスの場合、どれだけ満腹でも甘い物だけはどんどん入る。それは別バラに入るからだ」 

息子 「聞いたことあるよ。これがその別バラなのかぁ」 

父親 「メスの場合、内臓の半分を占めているから誤って 取りやすいんだ。 もっと右。そう、それだ」 

息子 「取れた」 

父親 「それをサイドスローで投げる。ちゃんとプレートの端から打者をかすめるように クロスファイヤーで投げるんだ」 

息子 「クロスファイヤーで?難しいなぁ」 

父親 「間違ってもストレートファイヤーで投げてはダメだ」 

息子 「ストレートファイヤー?それって何?」 

父親 「プレートの端からホームベースを対角線で横切るのを クロスと言う。一方、そのまま平行に投げることをストレートと言う。 右投げの投手が左打ちの打者にストレートで 投げると敬遠と言うんだ」 

息子 「それが敬遠かぁ。よくお母さんが言ってるよ」 

父親 「お母さんが? 何でだ?」 

息子 「お父さんはみんなに敬遠されてるって」 

父親 「お母さんが、そんなことを・・・」 

息子 「お母さんは今でもお父さんを敬遠してるんだって」 

父親 「まだ敬遠していたとは。 一日に700回も電話で求婚して無理やり婚姻届に ハンコを押させたからな。 それを根に持っているのかもしれない。 

息子 「ストーカーじゃないか、お父さん。しかもわりとヘビーな」 

父親 「違うよ。お父さんは最後まで決してあきらめないだけだ。 思い込んだら試練の道を行く、それが男のド根性。 常人とは気合が違うのさ」 

息子 「気合が違うんだね」 

父親 「人生は気合が勝負だ。 最後らへんはお母さんも電話線を引っこ抜いてたんだが、 それでもお父さんがかけると電話が鳴ったもんだ。 気合がそれを可能にしたんだよ」 

息子 「お母さんは少し違うことを言ってたよ」 

父親 「違ったのか?」 

息子 「一日何百回も電話のベルを聞き続けたから、 鳴ってない時でも鳴ってるような気がしたんだって」 

父親 「それはお母さんの勘違いだよ。 ハンコを押させた時はお母さんは精神病院に通っていたからね。 その時の記憶が交錯しているに違いない」 

息子 「お母さんの勘違いだったのかぁ。その誤解が原因でお父さんに敬遠策を使ってるんだね」 

父親 「そう。お母さんはおっちょこちょいだから 勘違いが多い。だから晩ご飯はインスタントラーメンが多いだろ? 食材を買い間違えるもんだからちゃんとご飯が 作れないのさ」 

息子 「え? 僕は晩ご飯にインスタントラーメンなんて 食べたことないよ」 

父親 「ないの? お父さんだけ? 本当に敬遠されてたんだ・・・。 お父さん、ちょっと落ち込んじゃったな」 

息子 「大丈夫だよ。最近代打が見つかったって言ってたから」 

父親 「代打? お父さんの代わりがいるのか?」 

息子 「出会い系サイトで若い人と知り合ったんだって。 深夜のホームランキングだって言ってた」 

父親 「あまり聞きたくない例えだな。 野球以外の例えはないのか?」 

息子 「う〜ん。 あ! 深夜のハットトリックとも言ってた!」 

父親 「この話は聞かなかったことにしよう」 

息子 「気を取り直して行こうよ。鬼は誰にするの?」 

父親 「鬼の役はもう決まった。 気にしないで豆の投げ方の続きを聞きなさい」 

息子 「うん」 

父親 「右投げのストレートファイヤーは右打ちの打者に放ってはダメだ。 思い切り直撃してしまうからな。だが例外もある」 

息子 「どんな例外なの?」 

父親 「打率のいい打者や監督の指示で<潰せ!>と 言われた時は投げてもいい。 特にホームランキングには使用頻度が高い。 監督の親指がググッと下向きの時がゴーサインだ。 ただしぶつけた後はちゃんと帽子を脱いで 反省のポーズを見せる。武富士ダンスや You Tubeや動画サイトのダンスの決めポーズなんかも効果的だ。 わざとだと気づかれるとあとで上靴を 隠されてしまう」 

息子 「上靴を隠されるのはこたえるもんね。 それにしても武富士ダンスが好きだね、お父さんは」 

父親 「よく武富士には世話になっているからな」 

息子 「とにかく親指が下になっている時は ストレートファイヤー&武富士だね。 親指が上になっている時はどういう意味があるの? お母さんがよく使うんだけど」 

父親 「お母さんが? どんな時に使うんだ?」 

息子 「どこ行くの? 誰と会うの? って聞いたら いつも親指を立てるんだ」 

父親 「代打の若者のことだな。それは」 

息子 「今日も家を出る時に立ててたよ」 

父親 「打者の顔がムカツク場合も投げてもいい。 父さんは昔、出川似のヤツがいたから 思いっきり投げたことがある。 顔面に豆がめりこんで大変なことになったがね」 

息子 「無理やり話を戻したね、お父さん」 

父親 「それが大人のやり方なんだよ」 

息子 「それが大人のやり方なんだね」 

父親 「ストレートファイヤーがいかに危険か分かったろう。 通常はクロスファイヤーで投げなさい」 

息子 「うん」 

父親 「じゃあとりあえずお父さんが見本を見せるからね。 的はあれにしよう。アミバッ! アミバッ!」 

息子 「凄いや、お父さん! お母さんのVAIOにねばっこい豆が直撃だ!」 

父親 「こんなものは壊れてしまえばいいのさ。 急にパソコンを買ったと思ったら 出会い系サイトでホームランなんぞ・・・。 あんなに愛してると言わせておいたのに・・・。 くたばれアミバッ! アミバッ!」 

息子 「お父さん、しっかり!」 

父親 「すまない、取り乱したりして。 でもお父さん、ちょっと旅に出るかもしれない」 

息子 「振り逃げしかできないのに敬遠されると辛いね」 

父親 「ずいぶんと大人ぶったことを言うように なったじゃないか」 

息子 「だって僕、もう30歳だよ」 

父親 「そうか。お前もそんな歳になっていたのか」 

息子 「お父さんが酒をあおっている間にね」 

父親 「そうでもしないとやってられない仕事なんだよ」 

息子 「確かに大変だよね。テーマパークのヌイグルミ俳優なんて」 

父親 「調子こいて蹴りを入れてくる子供、帰ろうとしてるのに執拗に写真を迫って腕を放さないおばちゃん、いちゃついているカップル、 予め答えを教えてもらっているのに演技が下手でやらせバレバレ『世界 不思議発見!』の黒柳哲子、 バラエティ番組の子供だましのテロップにも いい加減うんざりだ!」 

息子 「だから昼間っから林の中でスカイフィッシュの子供に長渕キックをしてるんだね」 

父親 「それが私の唯一の生きがいさ。あの瞬間のために生きていると言っても過言ではない。たまに肋骨150本持ってかれるけどな」 

息子 「そんなに辛かったなんて。 

    今日は思い切り羽を伸ばそうね」 

父親 「ありがとう。息子よ」 

息子 「あ、お母さん帰って来たよ」 

父親 「本当だ。やっと帰ってきたか。 息子よ、ストレートファイヤーの準備をしなさい」 

息子 「クロスファイヤーじゃなかったの?」 

父親 「今日は例外だ。帰ってきた鬼を目掛けて投げろ。 それ!」

母親 「鬼はお前だ!それアミバッ!」 

父親 「痛い!」

 

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