「かゆいトコないですか?」と聞かれたら「当ててください」と言いたい

この世のすべてを笑いにかえて生きるタムケンによるブログ。過去の記憶、日々の思い、外国人の妻や障害(ダウン症)を持つ子供たちとの日常について、笑いとユーモアたっぷりのエッセイを中心に書いています。

トイレから出たら女子高生が倒れてた件

転生したらスライムだった件、のように読むと良いと思いますよ。

 

世の中には信じられないようなことが不意に起こる。それも立て続けに。

この日の朝がまさにそうだった。

 

2021年が始まって間もなく、学校の始業式も過ぎて学生の姿も見えてきた頃。

 

朝の通勤列車で私は地獄の苦しみと戦っていた。電車の中でウンコがしたくなったからだ。

(注意) ウンコと言う単語が連発します

 

電車でウンコ。これ程サラリーマンを苦しめることは無いと言っていい。

電車の中にはトイレが無い。だから車内でウンコがしたくなったら我慢するしか選択肢はない。万が一漏れてしまうと大惨事だ。もちろん電車を降りてトイレに行けばいいのだろうが、電車を遅らせると会社に行くのが遅れる。遅刻はしないが遅刻ギリギリ。また、降りてトイレに行ったはいいものの、たいてい朝の駅のトイレは激混みだ。通勤時間は一日で最も駅に人が多い時間帯なので、当然トイレに行く人も多く、中には私のようにウンコがヤバいことになって駆け込んで来る人も多くなる。

男子トイレの2つくらいしかないプレミアムな個室は、並んで並んで並んで、やっと自分の順番になると、個室に入るときは急いでいても、いったんプレミアム席を確保すると異様に長居する輩が現れる。なんて迷惑な話だろうか。まさにクソヤローだ。

しかし人の優越感やマウンティング行為とは恐ろしい。個室の中にいる限りは絶対的優位に立てる。いくらでも優雅に過ごせる。せっかく手に入れたプレミアムシート。決して急いで手放そうとはしない。その結果、なぜか1つの個室は延々と埋まっていて、残る1つの個室のみの回転でウンコサラリーマンを入れ代わり立ち代わりでさばく状況になる。そして回転個室の前には限界を迎えつつあるか、実は限界を超えてしまったウンコサラリーマンたちが、ゾンビのような青い顔をして連なり、ある者は床の一点を凍ったように見つめたり、またある者はなるべく意識を肛門から遠く離すかのように天井の2km先を見ていたり、すでにウンコが臭い立つような姿を晒して並ぶシマツ。それはカオス。まさにカオスな状況。恐るべし、朝の駅のトイレ。

朝の通勤時間帯に駅のトイレに行くことを選んだが最後、ウンコが勝つか、自分の忍耐が勝つかの壮絶な戦いを挑まねばならなくなる。そしてそこに勝者はいない。

 

その朝も予兆はあった。

 

電車に乗り込むべく改札を抜けるときに、やや嫌な感じはあったのだ。これ、もしかしてウンコしといたほうがいいかもな、と言う微かな予兆が。しかし乗る電車を遅らせてトイレに並んでウンコをすると、会社に到着するのはギリギリになってしまう。最も安全だが効率は悪い。

悩ましいところだがこのくらいのウン圧

(注釈 ウンコが「そろそろ出番ですか?」と肛門を押す圧力のこと)なら何とかなりそうだ。幸い座って行ける通勤電車なので、会社まではウン圧に耐えて行けるだろう。そこでトイレに行けば時間的には最も効率が良い。よし、このまま会社に行こう。

 

甘かった。

 

それは嵐の前の静けさだったのだ。

 

電車に乗った15分後。

 

通勤経路の半分を過ぎた頃、急激にウン圧が上がりはじめたのである。

しまった。予想よりウン圧が高い。

むうううう、これは、ヤバい、かも??

 

第一波到来!

 

ぐはぁ!?

 

一気にウン圧が跳ね上がった。座っているから何とかやり過ごせるが、立っていたら完全にアウトのレベルのウン圧が押し寄せた。途中の駅に着いたものの、トイレに行くために立ち上がるだけでチェケラッチョ♪なことになること必至。

チェケラッチョ♪が何を意味するかはご想像にお任せするとして、それでも電車を途中で降りてトイレに行くべきか、後にのばして会社の最寄り駅でウンコをすべきか、かなり悩ましい状況であることに違いはなかった。意を決して途中下車し、ウン圧に敗れる前にトイレに行った挙げ句、プレミアムシートを目指す青いゾンビと化したウンコサラリーマンの群れに遭遇し、チェケラッチョ♪になることだけは避けたい。♪をつけて明るくしてみてはいるが、それはアラフォーのオッサンには許されない最期の状態である。

そんなこんなで悩んでいると、第一波が収まってきた。ん?これってまだ大丈夫なんでない?どうしよう。

 

プシューと電車の扉が閉まった。

 

下手に波が収まると判断が鈍るのが難点。

むうう、もうこのまま会社の最寄り駅まで行くしかない!

 

第二波到来!

 

んはぁ!?

 

やっぱりね!すぐ来たね!

またもや強烈なウン圧がきた。

何でいつもこうなるかな。

分かってる、分かってるのよ。

もうね、何度も経験してるからね。

ウンコするまで決してウン圧が解消されることは無いのに、まだいけるかなと思っちゃうのよ。希望を持っちゃうのよ。波がおさまったらまだいける、オレはやれる、諦めたらそこで試合終了だよ、安西先生、バスケがした

 

第3波到来

 

んふぅっ!!

 

ヤバい、本当にヤバい。

アカンやつ。これはアカンやつです。

タムケンってば3人の子供のパパなのに、会社では管理職なのに、元PTA会長なのに、電車でチェケラッチョ♪するなんてだめ。チェケラッチョ♪だけは絶対に避けねば。耐えろタムケン、耐えるんだ、ジッチャンの名にかけて!

 

もうすぐ会社の最寄り駅だ。あと少し。あと少しで着く。その駅は乗降客が少ない。トイレの個室は空いていることが多い。しかも駅のホームの端にトイレがある。階段を上がった先にある改札まで行かなくていいので到達距離は近い。そこまでもてば、いや、もってくれ!ウン圧に負けるな!

 

電車が最寄り駅に着くと開いたドアから滑り出すようにホームに飛び出してトイレに駆け出した私だがお尻の力を抜けないのでそれは駆けると言うよりお尻をキュッと引き締めてチェケラッチョ♪に逆らいつつ肛門と内股の何とか筋の最大筋力を維持しながら膝から下だけチョコチョコと速いような遅いような妙な小走りで忍者さながらの音の無い疾走でトイレを目指すものの気を抜くとウン圧が肛門を突き破りそうになるので必死に草原とか森とか小川のせせらぎとかウンコとは最も遠いであろう爽やかな美しい情景を思い浮かべて気をそらして走って走ってチョコチョコ走りつつもしかしたらトイレはまさかの青い顔のウンコサラリーマンのゾンビ列であふれているかも?と恐怖でしかない想像をしてしまって爽やかな小川のせせらぎの映像からつい気がそれたところでウン圧がまた「いよいよ出番ですか?」と肛門をぐいぐい押して来るのでテメエふざけんな!オレはまだやれる!チェケラッチョ♪してたまるか!とクソだけにヤケクソになりつつ(上手いですね)膝下忍者走りでトイレを目指す私だけど毎朝毎朝駅のトイレはほとんどカオスな状況になっていることはわかっているのにお腹のウン圧に押しまくられるサラリーマンの私は限界を超えそうになり仕方ないものこれはもうトイレに行くしかないもの今日はもしかしたら並ばずに済むかもしれないしこのままだとウンコ漏らしてチェケラッチョ♪になるからもう行くしかない!と一縷の望みを抱きながら半泣きと言うより全泣き状態で肛門の力に全精力を集中集中全集中だぞ水の呼吸だぞ負けるなオレの肛門ようやくトイレに着いた頼む空いててくれプレミアムシートよ今日だけは今だけはこの瞬間だけは空いていてくれ空いててくれ空いててくれ空いててててててててて

 

空いてた!! 奇跡だ! 

うおおおお!!

ズボボボンをいいい急いででで脱ぬぬ

検閲削除

 

 

 

突然ですが、しばらく爽やかな光景を各自でご想像ください。

 

 

北海道 十勝平野の草原を吹き抜ける風。

 

屋久島 原生林の苔についた一滴の朝露。

 

高知 四万十川の源流のせせらぎ。

 

奄美大島 透き通る海と鮮やかな魚の群れ。

 

 

はい、検閲オシマイ。

(全部行ったことなかった)

 

 

セーフ!!!

 

ぶはぁああ。危なかった。

してた?オレ息してた?生きてる?

青ゾンビ化してないか?

ようやく出番を迎えたウンコたちが、涙ながらに水の世界に旅立つ様を見送りつつ、深く息をついた。朝から凄まじい修羅場を味わってしまった。しかし良かった。チェケラッチョ♪だけは避けられた。もうぐったりだ。

 

フルマラソンを走りきったランナーのような達成感を味わい、手を洗った。

(フルマラソン走ったことないけど何か問題でも?)

コロナの時期でもあるので念入りに手を洗う。もうアレだ、今日はこれだけ凄いことしたんだから、仕事はせんでいいな。この爽やかな気分で、1日のんびりしよう。あ〜疲れた。

(注意 ウンコがもれそうになっただけ)

 

ハンカチで手をふきふき軽やかな足どりでトイレを出ると、眼の前に女子高生が倒れていた。

 

・・・。

 

・・・。

 

どういうこと!?

 

分からん。さっぱり分からん。

転生したらスライムだったことは最近はあるらしいが(ないです)、トイレから出たら女子高生が倒れてた件なんて聞いたこともない。

私の乗っていた電車が出て、次の電車が来るまでの間の時間帯なので、周りを見渡しても他には誰もいない。大都市大阪の割には人の乗り降りが少ない駅。だからトイレのプレミアムシートも空いてて助かった訳だが、今はそれゆえに人がいない。どうする?トイレでウンコをして出てきたら女子高生が倒れていた場合どうすればいいですか?とyahoo知恵袋で検索したら答えが見つかるだろうか?(無理です)

 

あまりにも現実離れした状況なのでパニックにすらなれない。よく見ると、女子高生が一人仰向けに倒れて、もう一人の女子高生が膝枕している状態。倒れている女の子は気を失っているようだ。膝枕している女の子は泣いている。

 

いや、もう分からないコトこの上ないんですが!

 

真冬の駅のホーム、朝っぱらからこんなところで眠りこけるはずもない。具合が悪くなって気を失ったのではないか。

そう言えば私が"諸事情"によりさっきトイレに駆け込んだとき、女子トイレの前に女子高生が2人、何やら楽しげに話していたっけ。あの2人か?

 

オッサンが見知らぬ女子高生に声をかけるなんて危険な行為だが、どう見てもこれは普通じゃない状況だから仕方ない。恐る恐る声をかけた。

 

「あの、さっきトイレの前にいたよね?」

 

膝枕してる子が私を見上げた。

泣きながら小さく頷くが、声は出ない。

やはりさっき見た子だ。パニックで声が出ない様子。

 

「二人で話してたよね?」

「ぁ、あ、はい・・・」

 

やっと返事をした。

 

「話してた子、具合悪くなったの?」

「ち、違います」

「違う?」

「あの子はもういなくて、この子は、気持ち悪いって言って、トイレに行って、出てきたら、フラついてて、そのまま、倒れて」

 

少しづつ話しはじめた。すると何となく状況が分かってきた。

 

女子高生が友達3人で電車に乗り、降車駅のホームに着いた。多分、私と同じ電車か、一本早い便で。1人が気分が悪くなってトイレに行き、2人はトイレ前で談笑。その前を青ゾンビが膝下忍者走りでトイレに駆け込んだ。気分が悪くなった1人はトイレから出てきたはいいが、へたり込んで意識を失う。そして頭をぶつけないように膝枕で介抱しているところに、四万十川の源流のように爽やかなイメージで生き還ったタムケンが現れたというわけだ。当然、タムケンは四万十川もその源流も見たことはないがこの際それはどうでもいいだろう。

 

ん?

 

いや、女子高生1人足りなくないか!?

 

確か3人で来たはずなのに1人足りない。具合の悪い子、膝枕の子、で、あと1人どこ行った?

 

「ねえ、あと1人の子はどこに行ったの?」

「でいりー、です」

「え?」

デイリーヤマザキに行きました」

 

この状況でコンビニ行ったの!?

 

おいおい、なんでコンビニに行く必要がある?確かに駅を出てすぐそこにデイリーヤマザキがあるが、このタイミングで行くのが分からない。まさか買い物じゃないだろうが。

 

「お友達、どうしてコンビニに行っちゃったの?」

「駅員さんが、誰も居なくて。だから、人を、呼びに」

 

なるほど、そういうことか。

この駅は乗降客が少ない。基本的には無人駅になっている。だから見渡しても駅員はどこにもいない。何か助けが欲しいときは、ホームのあちこちにあるインターホンのボタンを押して、ターミナルステーションの駅員の詰め所と、マイクで連絡をとる。

券売機の調子がおかしいとか、線路に落とし物をしたとか、不審者がいるとか、対面ではないがやり取りはできる。この子たちはそれを知らなかったらしい。だからコンビニの店員さんに助けてもらおう、となったわけだ。ってことは

 

今ごろデイリーの店員さんめっちゃ困ってるな!

 

デイリー店内ならともかく、駅のホームで誰か具合が悪くなってたからって助けに来てもらえるはずもない。若いとは言え、完全に間違った方向に力を使っている。

かく言う私もいきなりの状況なのでパニック度合いにさして違いはないのだろうが、正直なところ、青色ゾンビ化していた時に比べれば何てことはない。

 

ちょっとゴメンね、と言いつつ、失神してる子の口元に手を当てた。微かに息はしている。手首をとると脈もあった。

よくよく見ると、顔をしかめて苦しんでいる様子。失神と言うよりは痛みや苦しみで意識朦朧としている、と言う感じだ。

大丈夫?ときいても返事はない。ただの屍のようだ。いや、失礼。

何とか歩けるならタクシーなどで病院に送ってもいいが、歩くどころか自分で立つこともできない以上は救急車を呼んだほうがいいのは確実。立星(りゅうせい。三男)のピンチで何度も救急車を呼んでいる私の経験はダテではない。

倒れてる子の意識は混濁しているが、すぐに危険なわけではなさそうだ。膝枕の子に、吐いて喉が詰まると危ないので、とりあえず倒れてる子の顔は横に向けといて、と指示しておく。

 

問題はここが無人駅だと言うことだ。救急車を私が呼んだところで、ホームまで救急車両は入ってこれない。私は駅員ではないからホームは私有地や人の所有地になるだろう。部外者の私が人の所有地の中に勝手に外部から助けを呼べるのか?改札までなら助けを呼んでいいのか?踏切まで呼ぶか?緊急車両が入れる場所は別にあるのか?担架の搬送と患者の輸送経路は階段でいいのか?エレベーターの奥行きで担架は入るのか?救急隊員はどう誘導すればいいのか?非常ベルで駅員に来てもらえばいいのか?線路や電車の不都合ではないのにそれで伝わるのか?

周りがパニックになると妙に頭が回りだす。

ともかく色々と分からないことが多い。これらを自分で全て対応することは不可能だ。

多少待たされたとしても近隣駅から駅員にヘルプに来てもらったほうが良さそうだ。私にとっては駅での介抱は初めてだが、鉄道員にとってはそうでもないだろう。適切に対処してくれるはずだ。

 

「デイリーの店員さんは駅の中まで助けに来てくれないと思う。駅員さん呼んで来るからちょっと待っててね」

 

2人をその場に待たせて、ダッシュで階段を駆け上がり、改札のインターホンのボタンをプッシュ。そう言えばはじめて押したな。改札のボタン。

 

「はい、お客様どうされましたか?」

「あの〜、ホームで女子高生が倒れてまして。救急車を呼びたいんですが」

「え!?人が倒れてるんですか!?」

「はい。ほぼ意識が無い状態です。自分で歩けそうもないので救急車を呼んだほうがいいと思いまして」

「ば、場所はどちらでしょうか?」

 

駅の名前を告げた。

 

「駅のホームのトイレ前で倒れてます。お友達が介抱してるので助けを呼びに来ました」

「ホームのどちらでしょうか?」

「えと、だからトイレの前です。難波方面行きのホームのトイレ前です」

「そ、それは上り線ですか、下り線ですか?」

 

それって今、関係ないのでは?

 

応対がおかしい。明らかに。

難波行きが上りだろうが下りだろうが、この駅のトイレは1つしかない。そもそも難波行きが上り線と下り線に同時に存在することはない。もしかして、パニック気味か?

そりゃまあ人が倒れていることはあまり無いとは思うが、酔っぱらいが倒れてたりすることは無いのだろうか。妙にうろたえている感じがする。

うーん、不安になってきた。

 

「あの、上り線かどうかは分からないんですが、難波行きのホームです。で、隣の駅駅からでも助けをよこしてもらいたいんです。救急車は必要ですが、呼吸と脈は普通なので、すぐに命に関わる感じでもないです。若いから脳卒中でもなさそうですし、外傷や出血もありません。私では駅の中まで誘導できないのでまず駅員さんに様子を見てもらいたいのですが」

「わ、分かりました。今、その駅に駅員がいる時間帯なので、すぐに向かわせます」

「そうなんですか?じゃあお願いします」

 

インターホンを切って、女子高生が倒れている現場に戻った。相変わらずの状況。一人は気絶。一人は泣いている。ああ、夢じゃなかったのね、これ。二人に声をかけて戻った。

 

「駅員さん呼んだから。しばらく待ってね」

 

無人駅とは言え、常駐してる駅員が居ないだけで、割と待機してる時間帯も多いらしい。とりあえず応援が必要だ。隣の駅から来るより圧倒的に早いだろう。しかしインターホン越しの駅員さんは結構頼りなかったな。きちんと伝わってるのだろうか。誰が来るかは分からんが、駅員の制服を着てるから分かるはずだ。向こうからも倒れている女子高生がいれば判別できるだろう。

と、すぐにダカダカダカ〜!と騒がしく走る足音が聴こえてきた。姿は見えないが、これ、急いで駆けつけてる駅員さんではないだろうか。どこだろう?思うや否や、階段を駆け降り、ホームを猛ダッシュして要救助者を探す駅員さんが現れた。

 

現れたのは向かいのホームだった。

 

ホーム間違ってるよ!!

 

嫌な予感って当たるもんだな。

全然伝わってない。

あの探し方からすると、ホームで人が倒れてる情報しかもらってないことは明白だ。そのせいでホームの端から端までダッシュして目視確認してるのだろう。

って言うか、向かいのホームでは誰も倒れてないんだから、端まで行かなくても見渡せばこっちのホームで人が倒れてるのが見えるはずだ。走ってるこの駅員さんも頭真っ白なのでは。とりあえず走り去る前に気づいてもらおう。

 

「駅員さん!こっちこっち!!」

 

何度か呼んでようやく振り返った。

またダッシュで戻り、階段を駆け上がり、こちら側のホームまでやって来た。

 

「ど、どうされましたゲボゲボォ!」

 

アンタがどうしちゃったのよ!?

 

まだ30歳手前くらいの若い男性の駅員さん。走りすぎて激しく咳き込んでいた。いや、頼むから落ち着いてくれ。こっちが助けを呼んでいるんだから。

私から具合が悪くなった女の子の経緯を話した。予想通りこの駅員さんは少ない情報だけで寄越されていたらしく、知っていたのはホームで人が倒れているらしい、と言うことだけだった。

ようやく状況を把握してくれ、そこから無線か電話で連絡をとりはじめた。やはり素人が単純に救急車を呼んでも、駅の中への誘導や患者搬出は出来ないらしい。

救急車を手配してもらいつつ、駅員さんと協力して、倒れている子を優先トイレの台に載せる。優先トイレの台って非常時のベッドにも使えるのね。知らなかった。

ふう〜、これで何とかなりそうだ。

 

そこで、ダカダカダカ〜!と駆け寄る女子高生がもう一人現れた。

 

「ででデイリーのレジのお兄さん、一生懸命お願いしたけど来てくれないって!」

 

もう一人いたの忘れてた!

 

そりゃ来ないでしょうよ。むしろ来られたほうがビックリである。

一息つけそうなところだったが、パニック気味の子に状況を説明し、落ち着かせる。忙しいなぁ、もう。

 

そうこうしていると、次の電車が到着。

同級生と思われる子たち、学校関係者と思われる人たちが降車し、具合の悪い子が倒れていると知るや、あっという間にワラワラと20人ほどの人だかりができてしまった。駅員さんは会社や救急車とのやり取りで忙しいので、私が人だかりの質問攻めに答える。

しかし邪魔、いるだけの人たち本当に邪魔。

まあ、これだけ知り合いがいれば後は任せていいだろう。学校の先生か事務の方らしい人もちらほらいるし。

 

救急車サイレンが聴こえてきた。

駅員さんに一声かけた。

 

「救急車来たし、後は任せていいかな?

 私、今から会社行くので」

「はい、ご苦労さまでした」

「そっちもね」

 

あの子達がその後どうなったのかは分からない。今から思うと、ノロウイルスだったのかな?と思う。急激に吐き気や腹痛が起こり、ほとんど動けなくなる症状は、まさにノロウイルスの症状だった。

 

地方のニュースにもなってないし、大きな事故でもなかったので、また元気に登校してるのだろう。

 

私はと言えば、その後遅刻ギリギリで出社。

駅から会社まではダッシュし、光の速度で作業服に着替え、席に着くと同時にチャイムが鳴ったくらい、際どいタイミングだった。

同僚が話しかけてきた。

 

「タムケンが遅刻ギリギリって珍しいですね。どうしたんですか?」

「転生したらスライムだったから、って言ったら信じる」

「え?」

「いや、冗談」

話すと長いのでね。

 

翌日。

 

昨日は大変な朝だったな〜、あの子たちは大丈夫かな〜?と思って座った通勤電車。

肛門をノックするモノありけり。

 

「そろそろ出番ですか?」

 

また来やがった!

ウソでしょ!?

 

青ゾンビの戦いは終わらない。