「かゆいトコないですか?」と聞かれたら「当ててください」と言いたい

この世のすべてを笑いにかえて生きるタムケンによるブログ。過去の記憶、日々の思い、外国人の妻や障害(ダウン症)を持つ子供たちとの日常について、笑いとユーモアたっぷりのエッセイを中心に書いています。

タルギの大したことないは大したことある件

仕事をしていたところ、会社の携帯にタルギ(嫁さん)から電話が入った。

 

タルギは滅多に電話してこない。
急ぎでなければメールで連絡は済ませる。
緊急かつ致命的な事態に限って、仕事中の私に電話をしてくる。
ちなみに過去の事例を挙げると・・・

・生まれたばかりの立星(りゅうせい 三男)が呼吸停止して蘇生させている
・車で事故って怪我をしたが気にせずに買い物に行っていいだろうか?
・立星が42℃の高熱を出したので救急に行く

と言う内容だった。

いずれも結果的に大事には至ってないが、ぶっ飛んだ内容の連絡ばかり。
そのタルギが電話をしてきたからには、なかなかヘビーな事態に違いない。
まずはふう〜〜〜と深呼吸。
心を落ち着けて。
衝撃に備えて。
離席して電話に出た。

 

「もしもし」
「あ、タムケン、ごめんね仕事中に」

 

ん?
意外に軽い口調。

 

「後で言ってもいい気はするんだけどさ、すぐに言っておかないとタムケン怒るかな〜?って思って。そんなに、大したことでもないしさ」

 

何やら深刻な事態では無さそう。
すぐに言わないと俺が怒るようなこと?
はて、何だろう。思い当たる節は無い。

何か高い買い物でもしてしまったのだろうか。
あるいは車庫に車をぶつけたとか。
自宅の水のトラブル?電気のトラブル?
分からん。

 

あまりにも緊張して電話に出てしまったので、とりあえず息をついた。大したことはなさそうだ。衝撃に備える必要もなかったか。

 

「何だか分からんけど、ちょっと緊張しちやったわ、タルギ」
「そうだよね。仕事中だもんね」
「で、どうしたの?」
「コナン(長男)が車にはねられたの♪」

 

やっぱ衝撃ハンパねえ!!

 

ある。
大したことある。
とんでもない事件ではないか。
危うく携帯電話を取り落としそうになったが何とか持ちこたえた。
にも関わらずタルギのこの落ち着きようはどういう事だ。
我が子が車にはねられて平気でいられるほどの不動心は持ち合わせていないはずだが。
タルギはどちらかと言うとパニックになりがち。
聞き違いか? これは俺の聞き違いに違いない。

 

「いや、タルギさん、俺の聞き違いかな。
コナンがさっき車にはねられた、でいいの?」
「うん。町内で自転車乗ってたら車にはねられたの。」

 

やっぱ間違いなかった!

 

ますます分からん。
でも町内でってことは、自宅の前ってことかもしれない。
車を車庫から出すときのタルギが、自転車に乗ったコナンとぶつかったと言うこともあり得る。

 

「あの、コナンをひいたのは誰?
タルギさんですかね?」
「私が息子をひいてたまるか!!
アホなこと言うな!!
アホか!?
アンタはアホなんか!?」

 

めっちゃ怒られた!

 

なぜだ。なぜ怒られねばならんのだ。
しかも何気に3回もアホって言われたし。
せめて1回でいいじゃないか。
そんなに一気に使って、世の中からアホの言霊が絶滅しても知らんぞ。

 

「そんなに怒らないでよ。状況分からんのよ。
で、タルギさんはどこにいるの?」
「事故のあった交差点。」
「そこで何してるの?」
「警察が現場検証に来るから保護者が応対して欲しいって。野次馬もたくさんいてゴチャゴチャしてるね。事故った車と、コナンの自転車は、検証とかのために警察に持ってかれたの。立星(りゅうせい 三男)がグズり出したから友達呼んで預かってもらって、チューペット(次男)も戻って来るからママ友に留守番頼んで、それからまた交差点に戻って事故の状況とかを説明してたとこ。で、タムケンにも一応言っとかないと、って電話したの。メッチャ忙しいんで、もういいかな?」

 

良くない。
全然良くない。
一番大事な情報が抜け落ちているからだ。
それを確認しないと電話は終われない。

 

「コナンはどうなったんだ?」
「え?」
「コナンはどこにいるの?話に出てこないけど」
「いないの。コナンはここにはいない」
「なんでいないの?」
「それは・・・」

 

そこでタルギの言葉が止まった。
ちょっと待ってくれ。なぜそこで止まる?
一言では説明できない状態ってことか?
事故にあった本人がその場に居ない、警察への説明は親がしてるってことは・・・。

怖くなった。
続きを聞くことが。
それでも最もマシな事態を想定して聞いてみた。

 

「病院に行ったんだよね?コナンは怪我してるから救急車で運ばれて、今は病院にいるんでしょ?だから警察への事故の説明はタルギがしてるんだよね?」
「違うよ。病院には行ってない。救急車も来てない。
コナンはどこにも行ってないの。」
「病院に行ってないんなら事故現場にいるんじゃないの?」
「いない。コナンはここにはいないの。」

 

もうわけが分からなかった。
いや、分かり始めていたのかもしれない。
ただ、認めたくなかった。

 

「とりあえずコナンを電話に出して!」
「無理なの。コナンは話せない。電話には出られないの」

 

泣きたくなった。

コナンは家の近くの交差点で車の事故にあった。
現場には人だかりが出来ている。
そこで対応しているのは子供の母親。
警察は来たが救急車は来ていない。
救急車が来ても仕方ないような状況だから?
それほどに酷い状態だから?
生死の確認をする意味がないほどに。

 

「じゃあコナンはどうなったの?
今はどこで何をしてるの?」

タルギは予想外のことを答えた。

 

「サッカー」

 

はい?サッカー??

「ウチの庭で友達とサッカーを楽しんでるね」

 

サッカーをお楽しみ中!?

 

どう言う状況だ?
またもや振り切られた。完全に。
アラフォーの私の対応力をはるかに超えたスピードで、タルギは私を振り切った。

なんだ。
なんなんだこの状況は。
全く展開について行けない。

想像の中では死んでしまったコナンが、庭で友達とキャッキャとサッカーをしている。
死んだんじゃなかったのか?
救急車を呼ぶ意味がないくらいの事故で、話すことはおろか、説明すらはばかられる凄惨な事故現場ではなかったのか?
それが一転、庭でサッカーとは。

 

「なんでサッカーしてるの??」
「警察の質問とかめんどくさいし、友達とサッカーする約束してて、もう来る時間だからって、先に家に帰っちゃってさ。」
「って言うか、生きてるの?」
「え?そりゃ生きてるよ。」
「事故ったんでしょ?」
「うん。徐行してた車に、自転車の前輪がぶつかって転んだの。」
「怪我してないの?」
「するわけないじゃない。ぶつかったのは自転車なんだから。怪我してないって言わなかったっけ?」
「言ってない!大したことないって言ってただけ。」
「そっか、ゴメンゴメン。
最初に言うべきだったね。もう切るよ」
「最後にひとつだけ教えて!
コナンは元気なのね?」
「うん大丈夫だよ。もうビンビンだから!
そんじゃあね!」

 

そう言って電話は切れた。

タルギさん、そこはピンピンしてるって言わないと。
ビンビンじゃ下ネタになっちゃうよ。