次男のチューペットがまだ幼稚園に通っていた頃の話。
チューペットが通う幼稚園では毎月、その月に生まれた子供たちのお誕生日会があった。その月はシュウジの誕生日。
今まで嫁さんに任せっきりで私は出たことがなかったので、その時は仕事を休んで出ることにした。
幼稚園の体育館に行くと、年少さんから年長さんまでが集まっており、その月に誕生日を迎えた子供たちがみんなからお祝いを受けていた。初めて見たがなかなかいいものである。ママが多いがパパの姿もちらほら。まあ夫婦で来ているようだが。
教室に移動すると、同じクラスで誕生日を迎えた4人の同級生が前に立ち、みんなからこれからやりたいことや、好きな食べ物などを訊いたり、微笑ましいやり取りがかわされる。お祝いを一身に受けた満面の園児たちを主役に、ほのぼのと会は進み、最後に親たちを交えてゲームをすることになった。
「じゃあ今からパパとママと一緒にゲームをしましょう。パパとママはそれぞれ壁に向かって立って目を閉じて下さい。それと手を後ろに出して待っていて下さい」
先生に促され、壁沿いに並んで立った。さて、何がはじまるのか。何かを後ろ手に渡されるのだろうか。サプライズで手紙や似顔絵を渡されるとか?子供たちは内容を知っているらしく、何やらクスクス笑い出す子もいる。
「はい、では今からお子さんたちが順に握手をしていきます。パパとママは握手だけでお子さんを当ててくださいね」
なるほど。見ないで我が子が分かるかどうか試すわけか。誕生日の子は4人。つまり4分の1。まあぼちぼちだな。と、思いきや先生からの追加条件あり。
「じゃあ今日は子供8人の中から当ててもらいましょう♪」
マジか〜〜 !!
おいおい。この先生ったら涼しい顔して何てえげつないこと言ってるんだ。同じ5歳児が8人いて、見ないで当たるわけないじゃないか。もしやSか?ドSの先生なのか?
しかも今日はって。完全にあんたのさじ加減で決めてるじゃないか。自由すぎるだろ。
ざわつく親たち。多分、みんな同じ気持ちだろう。
そんな中、容赦ない開始の合図。
後ろ手の私に握手をして来る園児たち。
一人目。
二人目。
ヤバイ。分からん。全然分からん。
だってみんな5歳児よ?同じような感じよ?すまんチューペット。パパ、限りなく無理っぽい。当たる気がしない。
仕事で忙しい中頑張って来てみたけど、今は君も凄く嬉しそうな顔をしてるけど、多分5分後の君はテンション激落ちしてると思うよ。だって分からんもん。
三人目。
んん?
ここで変化に気づいた。何か妙に素っ気ない。握手がさっぱりしている。よく考えたら子供たちにとっても親は一人。自分の親以外とベタベタ握手なんかしたくないだろう。それ以降も、よくよく感じれば、指が長かったり、手が大きかったりする。シュウジは体が小さいので、手も多分小さい。だから一番小さい手を選べばいいはず。それでも似た子は三人はいた。後は運否天賦。
「握手が終わりましたね。じゃあ、端のお父さんから、答えをどうぞ!」
端のお父さんは私じゃないか!
むうう。前に何人かいれば正解率が上がるのに。
見つめる園児。このパパはどう?当たりそう?どうだろう。外すと面白いのになぁ。うふふ。
ぐああ!心の声が聞こえる!純真かつ残酷な心の声が!
もうやるしかない!
「に、二番!」
・・・。
「正解!」
「おお〜!!」
どよめく教室。喜ぶチューペット。
うおお!やったぞ!パパはやったぞ!
自分で言うのも何だが、かなりギリギリの選択だった。良かった。当たって良かった。ぶっちゃけ吐きそうだった。
その後、他の親御さんの答えも続き、よく当たった。教室のテンションはMax。今回はなかなか優秀な成績らしい。他のクラスでは三択でもダメだったとか。いや、普通は当たらんと思うよ。
しかし前三人の親が当ててからの、四人目のママの動揺っぷりも半端なかったね。ここで自分だけ外したらウチの子どうなんの!?ってパニクってたけどね。この展開なら最初に答えるのが楽やね。
幼稚園のお誕生日会。油断してると思わぬ角度から斬られるよ?と言う話。