その時は、トランプ氏が米国大統領になることに反対する人たちが、アメリカでデモをやっている映像がよく見られたときの話。
日本ではデモ自体あまり見かけないが、海外ではデモと政府の衝突は割とポピュラーなニュース材料だ。
途上国なんかだとデモを解散させるために、軍隊だか警察隊だかが群衆に放水したり、催涙ガスを浴びせたり、なかなかのパワーを感じさせるが、日本に生まれた私としてはニュースの中の出来事と言うか、全く実感の無いものである。そう言えば日本でも学生闘争とかやってた何十年か前には激しくデモとかやってたんだっけ、と思う程度。
最近記憶に新しい最も激しいデモと警官の衝突は、2014年の香港での事件だろうか。反政府主義のデモ隊が警官隊と衝突し、警官隊から催涙ガスを浴びせかけられる映像が毎日のように流れていた。
そんなニュースを見ていた時、テレビに向かって発したタルギ(嫁)の独り言がおそるべき内容だった。
「あら〜、凄い喧嘩だわ。香港って熱いわね〜。うわっ。催涙ガス浴びせてるじゃないの。あんなことしなくてもいいのにね。あれって、浴びると目は痛くて開かなくなるし、息もできなくなるもん。ありゃしばらく再起不能だわ。痛そ〜」
ええっ!?
ちょっと何気に凄いこと言ってないか?
もしかして浴びたの?
浴びたことあるの?
って言うか絶対浴びてるよな?
描写がやたらと細かいもの。
しかしあるもんだろうか。
催涙ガスを浴びることなんて。
隣に座ってる嫁さんがそんな経験してるなんて。
無い。
ふつう無い。あり得ない。
これはまた凄いネタが出て来た。
「あの、タルギさん。一つよろしいでしょうか」
「何でしょう?」
「浴びたんですか?」
「何を?」
「催涙ガス」
「え?そりゃあるよ。
タムケンは浴びたことないの?」
無いですけど!?
「あるわけないやん!」
「うそ!?無いの!?
ちょいちょい浴びるもんじゃないの?」
「浴びてたまるか!
何がちょいちょいやねん!
シャワーみたいになってるやん!」
「日本は平和でいいよねー」
経験者だった。
リアルに催涙ガス浴びてやがった。
一体どう言うことだろうか。
しかもちょいちょい浴びていたと言うではないか。
この辺りでタルギは私の驚きようを察し、日本ではあり得ないことと分かったらしい。そして無理な揉み消しを図ってきた。
「いや、浴びたって言うか、偶然って言うか、ほらアレだ、たまたまって言うか、巻き込まれた感じだったんよね。分かるでしょ?」
さっぱり分かりませんけど!?
「俺が知ってるたまたまとはレベルがかなり
違う感じだわ。アンタの住んでた釜山ってそんなデモがガンガン起こる街だっけ?」
「だってしょうがないでしょ!?巻き込まれたんだから!」
「だからなんで巻き込まれちゃうわけ?どう言う状況?何をしたら巻き込まれるの?」
「買い物・・・」
「え?」
「買い物よ!
買い物に出かけたらデモに巻き込まれたの!
それで警官隊に追い回されて、催涙ガス浴びせられたわけ!」
どんな買い物ですか!?
「催涙ガス浴びせられる買い物ってどんな買い物!?爆弾?爆弾とか買った!?それとも毒ガスでも買った!?って言うか、アンタ過去の経験の幅が半端ないっすよ!俺、もうついて行けないんですけど!」
「ゴチャゴチャうるさい!
韓国では買い物に出かけたらたまたまデモに巻き込まれて催涙ガスを浴びせられることもあるんじゃ!」
そんな買い物はイヤすぎる!
強引に揉み消しを図るタルギだか、あまりに話題が大きすぎてはみ出してしまった。
さすがタルギ。ワールドワイド。
タルギさんの引き出しはまだまだ深い。
ガスが無くても涙無しには語れない。