「かゆいトコないですか?」と聞かれたら「当ててください」と言いたい

この世のすべてを笑いにかえて生きるタムケンによるブログ。過去の記憶、日々の思い、外国人の妻や障害(ダウン症)を持つ子供たちとの日常について、笑いとユーモアたっぷりのエッセイを中心に書いています。

笑ってはいけない告知

2017年1月。

 

1年末に生まれ、集中治療室に入っている三男、立星(りゅうせい)の件で担当医に呼ばれた。

 

「お子さんのことでお話ししたいことがあります。なるべく早く病院に来て下さい。できれば明日にでも。
それと、とても重要なことをお話ししますので必ずご夫婦そろって来て下さい」

 

緊張が走った。ただならぬ雰囲気を感じた。
立星は生まれてから二度の呼吸停止と蘇生を施されて集中治療室に入っていた。症状や身体的特徴からもダウン症であることはほぼ確定だった。その上で更に伝えたいと言うからには、よほど重大な疾患であることに違いない。恐らく、命に関わるほどの。
ダウン症の子供は心臓や肺に疾患が多いと聞く。何とか命は助かったものの、何らかの致命的な疾患を持つ可能性は高い。夫婦揃って来てください、と言うからにはかなり重大な疾患の告知をされるのであろう。立星は、ダウン症の子供は、やはり長くは生きられないのだろうか。せっかく助かったのに、また命の危機にさらされるのであろうか。悪い想像ばかりが脳裏を巡って止まなかった。

 

翌日、担当医と面談した。

 

「おはようございます。朝からお越し頂き申し訳ありません」
「で、先生、ウチの子供の事でお話って何でしょうか」
「はい、ショックの大きい内容ですが落ち着いて聞いて下さい。」

 

そして担当医は話し始めた。精密検査の結果、立星がダウン症であること、今後は医療と教育をミックスした療育が必要であることを。顕微鏡で撮影された立星の染色体は、確かに一本多かった。21番目の染色体が2本ではなく、3本セットになっていた。21トリソミー。いわゆるダウン症が確定した。
しかしそれは問題ではない。そんなことは立星が生まれた直後から示唆されていたことで、とっくに受け入れていることだ。ダウン症は体質であって病気ではない。ダウン症であるが故に罹りやすい病気、例えば肺や心臓の欠損などがあるのかが重要である。場合によっては直ちに手術が必要になる。それでも助からない場合だってある。わざわざ病院に呼んだからには、何か重大な疾患が見つかったに違いない。

 

「ご主人、奥さん、気をしっかり持って下さいね。我々もサポートしますから。本日は以上です」

 

んん?
もしかして終わった?
告知って、ダウン症のことだけ?
そんなはずはない。

 

「あの、先生、ちょっといいですか」
「どうぞ」
「立星はダウン症ってことは分かったんですが、それだけですか?」
「はい。そうですが」
「いや、何か重大な疾患があったと思って来たもんで。心臓が悪いとか、肺が悪いとか」
「そちらも検査しましたが、今のところ大丈夫です。健康そのものです」
「そ、そうですか」
「ご主人、こう言っては何ですが、あまりショックを受けられていないようですね。告知を受けると泣き崩れる親御さんもいらっしゃるくらいですよ」

 

ショックどころか物足りないくらいだ。こっちは我が子の死の宣告を受けるつもりで来たのだ。分かり切ってるダウン症の話を今更されたところで、どうってことはない。それよりも気になって仕方ないことがあった。

 

この担当医の先生ってばフルーツポンチの村上にメッチャ似てるやん。

 

そんなに好きな芸人でも無いのだが、よく似ていた。

一目見た時から誰かに似てるなぁと思っていた。フルポン村上に似てる!と気づくや否や、笑いを堪えるのがもう大変で。腹から沸き起こる爆笑の欲望。しかしダウン症の告知を受けている場面で、爆笑するわけにはいかない。


「先生、ウチの子がダウン症だったなんブフゥ!?」


とか笑ってしまうわけにはいかない。

 

「これからどう生きていけバハァ!?」

 

とか笑うのもダメ。

場違い。
告知の最中に爆笑なんて場違い極まりない。

でも。あ〜でもでも。
笑ってはいけないと思えば思うほど、物凄い笑いの圧力が腹の底から溢れてくる。

泣き崩れる親もいる我が子のダウン症の告知の最中、私は笑いを堪えるのに必死だった。

 

帰りの車の中、ようやく笑ってはいけない地獄から解放された私は一人で爆笑した。突如として笑い出した旦那に嫁さんが驚いたのでワケを説明した。

 

「お前もフルポン村上に似てると思ったよな?」
「いや、全然似てない」


と一刀両断にされてしまった。

夫婦はかくも分かり合えないものか、という話。

ー追伸ー
立星は3日後に元気に退院しましたよ。