「かゆいトコないですか?」と聞かれたら「当ててください」と言いたい

この世のすべてを笑いにかえて生きるタムケンによるブログ。過去の記憶、日々の思い、外国人の妻や障害(ダウン症)を持つ子供たちとの日常について、笑いとユーモアたっぷりのエッセイを中心に書いています。

立星の手術と思春期の角

担当医からの告知ありけり。

 

「あなたのお子さんは手術が必要です」

 

私&嫁「ズッコーーーン!」

 

三男の立星(りゅうせい)は生まれてすぐに呼吸停止に陥って蘇生したり、入院したりで、割と大変だったが、ようやく少し落ち着いたかなと安心し始めた一歳前のゴールデンウィーク。強烈な高熱が出たときの話。

 

仕事中の私の携帯にタルギ(嫁さん)のから着信あり。

 

「タムケン、立星が熱っぽい」

「おおー、初めての発熱やね。今まで熱が出なかったのか不思議なくらいやね。子供はすぐ熱が出るのに。んで、今は何度くらい出てるの?」

「39℃超えてるわね」

 

おお〜っと。

これは注意が必要な状況だ。しかし高熱になっても慌ててはいけない。ぐったりしてなかったり、活動的であればそれほど心配は必要ないパターンもある。

 

「本人の様子はどんな感じ?」

「ぐったりしてるね」

 

ダメなパターンでした!

 

「やばいやん。そりゃ病院に行ったほうがいいね」

「あと、いつもと様子が違うのよ。ダウン症だからかな。ずーっと上向いてるの」

「上向いてる?」

「そう。目が真っ白になるくらい上向いてる。なんでかな?」

 

白目むいてるやん!

 

「そりゃ白目だ!」

「シロメ?何それ」

「気絶してるってこと!緊急事態です!」

「マジで!?チョンマ リムニカ!?」

「チョンマリ!」

 

病院直行

 

立星はダウン症だ。全般的に体が弱い。何か知らないが弱いらしい。それは本人のせいではないし、親のせいでも誰のせいでもない。1000人の子供が生まれてくるときに1人の確率で、たまたまそうなる子供がいるだけだ。

 

ダウン症の子供たちは心臓や血管に疾患がある場合が多く、生まれて間もなく外科手術を行うことも少なくない。

立星は生まれてからの毎月の検診でも運良く異常は見当たらず、ただ単に甘えん坊の愛らしい赤ちゃんでしかない。

 

今のところ普通と違うことと言えば、特定のインフルエンザウイルスに抵抗力が極端に弱くて重症化しやすいらしく、1本10万円もする抗体を冬は毎月注射しなければならないことくらいだ。

 

毎月10万円!?

製薬会社は俺を殺す気か!?

と、当初は恐れおののいたが、ダウン症の子供には特有の保険が適用されるので、実費10万円の抗体は500円で済む。うちの親はバブル世代のせいか、とりあえず月何万円かの生命保険や医療保険に入ることを長男出生の折から進めて来たが、日本は世界に冠たる医療保険があるのでせいぜい掛け捨ての共済で十分と思っていたことが証明された。日本国の医療保険カムサハムニダ

 

そんなこんなでゴールデンウィークに我が家は入院直撃。

 

今回は子供の入院の何が辛いかを思い知らされた。NICU(新生児集中治療室)では専属の看護師が24時間看護をしてくれるが、一般病棟の場合は治療自分のことは自分でしなければならない。赤ちゃんは自分のことは自分で出来ないので、親が24時間付き添わなければならない。ほとんどの場合は母親が付き添うので、家のことがガラ空きになってしまう。他に子供がいないとか、兄弟が留守番できるならともかく、その頃の我が家は小学校低学年の子供たちがいた。母親が働いてるわけでもないので学童保育に預ける資格も無く、預ける場所もない。とは言え、とても放っておける年齢ではない。1、2日ならともかく、下手すれば何週間もそのような状態が続く。私が何週間も休んで子守をすることは、すなわち会社を辞めて収入がなくなることを意味する。三男は緊急入院しなけばならないのに、長男と次男の受け皿がないのである。これは相当困ったことになった。

 

そこで動いてくれたのが私のオカンだった。

 

何時間も離れたところに私の両親は住んでいるが、孫の危機を聞き、すぐさま泊まりで駆けつけてくれ、小学生の孫の面倒をみてくれたのである。おかげでタルギ(嫁さん)は三男の入院の付き添いが出来た。この時は我が親に心底感謝した。

 

何時間もかかるとは言え、私はまだ実家と日帰りできる距離に住んでいるが、転勤族の方々や、親に頼れない人たちはこのようなことかあった場合、一体どうやって乗り切るのだろうか。親と不仲な夫婦は?母子家庭は?地元を離れ、共働きの夫婦も絶望的である。子供が入院する場合、何週間も付き添うのは誰なのか。更にその間の兄弟の面倒は誰が見るのか。下手するとどちらも仕事を辞めないと対応できない。来月や来年からではない。その日からすぐに必要なのである。子供の緊急事態は待ってくれず、交渉の余地もない。

幸い我が家は私のオカンが来てくれたが、タルギの親は韓国にいて簡単には来られない。来ても言葉が全く通じないので買い物もおぼつかない。私たち夫婦はたまたま国際結婚しただけだが、海外配属されるビジネスパーソンはどんどん増えている。家族で移住した場合はどうすればいいのだろう。どちらの親も頼りにできない。私のように日本で結婚して居を構え、奥さんが韓国人で、以後、仮に中国で働くことになって、子供が入院したら?

グローバル化や待機児童の解消、働き方改革が叫ばれて久しいが、とてつもなく表面的で耳障りがいいだけの文句に聞こえる。子供が入院すると一気に核家族は窮地に陥る。お金があろうがなかろうが、物理的窮地に立たされる。そしてその受け皿が日本には全く無いことを思い知った。保険金や子供手当をもらうよりも、子供の入院付き添い代行などを病院に補助してもらえら方がよほど現実的ではないか。なぜならお金で買えない価値を補助してもらえるからだ。

 

オカンの活躍で三男、立星にはタルギが24時間、2週間に渡って付き添った。検査の結果、立星は肺炎と腎臓炎を併発していた。感染症で高熱が出ていたらしく、点滴と抗生剤を使うと熱も下がり、元気を取り戻した。その後の経過も順調だったのでゴールデンウィークを経て立星は退院できた。

 

問題はなぜ、そんな感染症を引き起こしたのか、である。その理由を説明するので、すぐ来て欲しいと退院まもない中、病院から呼び出しがあり、冒頭の告知がなされた。

いきなり手術が必要だとか言われてもピンと来ない。そりゃ夫婦そろって昭和調のズッコーンとか言いたくもなる。

 

「立星くんは尿管がとても広くなっています。そのため、膀胱から尿が逆流して感染症を起こしています。形成手術が必要と思われます」

 

ということらしい。

 

白目を剥くほどの高熱が出たので、これは命の危機もあり得るかもしれないと覚悟していたが、そこまでの事態ではなかった。ゴールデンウィークを挟んで前後2週間に渡って入院が必要だったが、不幸中の幸いだ。

 

医者「それから別の診療にも寄ってもらえますか?いつも通り、心臓や循環器の検査もしますから」

タルギ「分かりました」

医者「では思春期の角を曲がって下さい」

 

え?

 

今、思春期の角を曲がるって言った?

思春期のカド? 何それ??

 

タルギに驚いた様子はない。医者もタルギも至って平静だ。ならいつも曲がっているのだろう。思春期の角を。なるほど・・・

 

って、どんな角!?

 

我が子に外科手術が必要と言われている最中、私の頭は疑問符の嵐。そんな角は聞いたことがない。思春期の角?どんな角?パニック寸前である。

 

タルギ「はい。じゃ思春期の先に行きますね」

 

どこに行っちゃうの!?

 

思春期の先ってどこ?それは単なる大人か?オトナになっちゃうのか?イヤだ。俺は汚いオトナになりたくない。社会の犬になんてなりたくない!盗んだバイクで走りたいんだ!

 

とか言ってる場合ではない。

 

しかし医者が言ったのだ。真顔で。思春期の角を曲がれと。凄いカドだ。聞いたこともない。なんて魅惑的な響きだろう、そんな角を曲がるときには何やら凄いことが起こりそうではないか。

 

食パンくわえて

 

「やばい寝坊しちゃった!遅刻チコク〜」

 

とか言ってる転校初日の美少女とぶつかる角なわけだ。

頭と頭を思春期の角でゴッチんこし、尻もちをついた2人。

 

「アンタどこ見てんのよ!」

「そっちこそどこ見てんだよ!」

 

瞬間的に罵り合うも遅刻寸前の二人。

すぐさま立ち上がり学校にダッシュ

 

何とか間に合った学校の朝礼。

先生から唐突な発言。

 

「ええー、今日はみんなに急な報告がある。今日から新しく仲間が増えることになった。じゃあ、自己紹介して下さい」

「はい、今日からお世話になり、って、あ!アンタは今朝の!」

「お前は今朝の!!」

 

それが彼女との出会いだった。

 

的な!

 

的なレボリューション!!

 

そんなことが起こりえる。思春期の角では起こりえる。何てことだ。妻と子供を持ったアラフォーの俺が、今から思春期の角を曲がることになろうとは!

 

たまらずタルギに訴えかけた。

 

「聞いたかタルギ!思春期の角を曲がるらしいぞ!」

「はい?」

「はい?じゃないわ!食パンくわえた美少女と出会い頭にぶつかる角のことやないかい!遅刻しかかってるシチュエーションにおける最大イベントやないかい!これこそが青春だ!思春期だ!」

「タムケン、何言ってんの?

アタマ診てもらう?」

 

韓国人には全く通じませんでした。

 

そんなこんなで思春期「外来」の角を曲がり、心臓外科に向かったのであった。

なんか、そんな診療科があるらしいよ。

 

多分、思春期外来の中には遅刻しかかってる美少女が、食パンくわえてウロウロしてるんだろうなと思うが、その事実は定かではない。

 


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